フォルクスワーゲン ニュービートルとザ・ビートル:二つの世代が紡ぐビートルの物語
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フォルクスワーゲン「ビートル」は、約80年にもわたる長い歴史の中で、3つの主要な世代を経てきました。初代の「タイプ1(空冷ビートル)」に続き、その愛らしいデザインを現代に蘇らせたのが「ニュービートル」、そしてそのコンセプトをさらに洗練させた「ザ・ビートル」です。これら2つのモデルは、初代ビートルの精神を受け継ぎながらも、それぞれ異なる時代の要請と技術背景のもとで進化を遂げてきました。本稿では、「ニュービートル」と「ザ・ビートル」の具体的な違いに焦点を当て、その魅力を深掘りします。
1. ニュービートル:愛らしさを追求した20世紀末のリバイバル
「ニュービートル」は、1998年に登場し、日本では1999年に発売されました。その開発はアメリカで行われ、当時のフォルクスワーゲン「ゴルフ4」のプラットフォームをベースとしていました。
プラットフォームについてはこちら▼
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デザインとコンセプト
ニュービートルの最大の特徴は、初代タイプ1の親しみやすい愛らしさを強調した、曲線的で丸みを帯びた「可愛い」デザインです。この愛らしい外観は特に女性からの高い人気を集めました。水冷エンジンを搭載し、時代の変化に対応したモデルとして位置づけられました。
外観と内装
外観はサイドから見ると半円状のシルエットが特徴的で、レッドやブルー、グリーン、オレンジなど、発色の良いボディカラーが豊富にラインナップされていました。内装は、丸をテーマにしたデザインが随所に見られ、ダッシュボードに一輪挿しが装備されるなど、癒しの雰囲気が演出されていました。
2. ザ・ビートル:スポーティさを加えた現代のアイコン
「ザ・ビートル」は、ニュービートルの後継モデルとして日本で2012年4月に販売が開始されました。プラットフォームは当時のフォルクスワーゲン「ゴルフ6」をベースとしています。
デザインとコンセプト
ザ・ビートルは、ニュービートルと比較して「硬派でスポーティ」なデザインが特徴です。低めのルーフと短いボンネットがスポーティな雰囲気を醸し出し、初代タイプ1のテイストをより色濃く残していると言われます。このデザインは「可愛い」だけでなく「カッコよさ」も兼ね備えているため、男性ユーザーからの人気も高いモデルです。
パワートレインと走行性能
エンジンは、コンパクトさ、高効率、低燃費をコンセプトにした直列4気筒ICターボエンジンを搭載し、排気量は1.2Lから2.0Lまで設定がありました。DSGトランスミッションを採用し、燃費が良く効率的な走りを実現しています。特に1.4TSIエンジンを搭載する「Rライン」グレードは、「エンジンオブザイヤー」を複数回受賞した実績を持ちます。走りは本格的と評価され、高速走行時の直進安定性も抜群であるとされています。
年式による変更点と特別仕様車
ザ・ビートルは2019年に生産を終了しましたが、その歴史の中で多数の特別仕様車や限定車が投入されました。
「See You! The Beetle」キャンペーンの一環として2018年10月に発売された「マイスター」や、500台限定の「エクスクルーシブ」など、内外装の質感を向上させた特別モデルが多く存在しました。その他にも「Choco」、「Journey」、「Club」、「Dune」、「ALLSTAR」、「#PinkBeetle」、「Black Style」、「SOUND」など、個性豊かな限定車が販売されています。
3. ニュービートルとザ・ビートルの比較総括
ニュービートルとザ・ビートルは、どちらも初代ビートルのデザインを受け継ぎながらも、そのアプローチとターゲット層に明確な違いがあります。
デザインとコンセプト
(窓部分が曲線的なのがニュービートル(左)、細身なのがザ・ビートル(右)です)
- ニュービートル:「可愛い」に特化した、曲線的で丸みを強調したデザイン。初代の愛らしさを現代的に再解釈しました。
- ザ・ビートル:初代タイプ1の面影を色濃く残しつつ、低めのルーフと短いボンネットでスポーティさを加えた「硬派」なデザイン。男性ユーザーにもアピールできる「カッコよさ」を追求しました。
走行性能と実用性
(ニュービートル(奥)とザ・ビートル(手前)のカブリオレ(オープンカーモデル))※画像はイメージです
- ニュービートル:走りは「さほど本格的ではない」とされる一方、「かわいらしさ」がオープンカーとしても魅力でした。後部座席や荷室は狭いという課題がありました。
- ザ・ビートル:より本格的な走りを追求し、高速走行での直進安定性も高いと評価されました。ニュービートルの課題であった後部座席や荷室の狭さを改善し、全体的にサイズをワイド化することで実用性を向上させています。
プラットフォームと先進性
- ニュービートルは「ゴルフ4」のプラットフォームをベースに、ザ・ビートルは「ゴルフ6」のプラットフォームをベースにしています。
中古車市場の傾向
- ニュービートルは、年式が古いため、ザ・ビートルに比べて手頃な価格帯で入手できます。
- ザ・ビートルは、比較的新しいモデルであり、後期型や特別仕様車は高値で取引される傾向があります。特にカブリオレは希少性が高く、リセールバリューが高い可能性があります。
4. ビートルというアイコンの終焉、そして未来
フォルクスワーゲン・ビートルは、約80年もの歴史に幕を閉じましたが、その公式サイトには「Good Bye!」ではなく「See You!」というメッセージが掲載され、ファンの間では将来的な復活への期待が広まっています。
ニュービートルとザ・ビートルは、それぞれ異なる時代に、初代ビートルのデザインと精神を現代に蘇らせようと試みたモデルです。ニュービートルが「可愛さ」を前面に出し、ザ・ビートルがそれに「スポーティさ」と実用性を加えることで、多様なニーズに応えてきました。生産は終了しましたが、そのユニークな存在感は今も多くの自動車愛好家を魅了し続けています。